溺愛プロデュース〜年下彼の誘惑〜
それに…
「水浸しになっちゃったから
洋服はもう使えない、よね。
メイク道具はダメになっちゃったし…」
持ち出さなきゃ意味がなかったのに
何もしてあげられなかったから。
「メイクはショックだけど
元はと言えば私の不注意だから仕方ない事。
衣装はクリーニングに出したから平気よ。
そこまで気に掛けてくれるのね」
「美南さんの1番大切にしている物だから…」
「貴方って人は…不思議ね」
初めて見せてくれた穏やかな表情に
私も自然と顔が綻ぶ。
「モデルの仕事も…
酷いこと言ってごめんなさい。
綺咲さんを応援する事にします」
また頭を下げる彼女は
今日はずっと素直すぎる。
「でも、然の事は諦めないから。」
フッと鼻で笑う姿は
いつも通りの小悪魔だ。
「これからも宜しくね」
私は手を差し出して握手を求めると
『なんで握手よ』と照れ臭そうだったけど
素直に応じてくれた。
少しだけ、ほんの少しだけ
遠すぎた心の距離が近くなったような
そんな気がした――――
【火炎に映る涙。終】