溺愛プロデュース〜年下彼の誘惑〜

それに…

「水浸しになっちゃったから
 洋服はもう使えない、よね。
 メイク道具はダメになっちゃったし…」

持ち出さなきゃ意味がなかったのに
何もしてあげられなかったから。

「メイクはショックだけど
 元はと言えば私の不注意だから仕方ない事。
 衣装はクリーニングに出したから平気よ。
 そこまで気に掛けてくれるのね」

「美南さんの1番大切にしている物だから…」

「貴方って人は…不思議ね」

初めて見せてくれた穏やかな表情に
私も自然と顔が(ほころ)ぶ。

「モデルの仕事も…
 酷いこと言ってごめんなさい。
 綺咲さんを応援する事にします」

また頭を下げる彼女は
今日はずっと素直すぎる。

「でも、然の事は諦めないから。」

フッと鼻で笑う姿は
いつも通りの小悪魔だ。

「これからも宜しくね」

私は手を差し出して握手を求めると
『なんで握手よ』と照れ臭そうだったけど
素直に応じてくれた。

少しだけ、ほんの少しだけ
遠すぎた心の距離が近くなったような
そんな気がした――――


    
         【火炎に映る涙。終】



< 98 / 175 >

この作品をシェア

pagetop