世界でいちばん 不本意な「好き」



「アリス、明日のライブ楽しみにしててな」


めずらしくやる気があるらしい。

バイトに向かおうとうわばきと靴を入れ替えているとショーマから声をかけられた。


「ああ、うん。がんばって」

「おー。途中まで帰ろう」

「うん」


まあ、しかたなく。そう思いながら歩き出す。


「今日はどこ?」

「コンビニ」


歩くのが速いタイプのショーマはななめ後ろを向くようにして話しかけてくる。

付き合ってるときからこうで、校内ならいいけど外で歩くときは危なっかしくて目が離せなかった。



「それにしてもさあ」


あ、これは、このまえの話だな、と、つづく言葉を聞く前に悟る。


「好きなひとができなかったって、なんか、綺麗な言葉だよな」

「…まあ」


なんでかな。あいまいな返事をしてしまった。

だってわたしには綺麗なのかどうかもよくわからない。


「大人とか、もっと言うと芸能人ってもっと遊んでんのかと思ってた。勝手に」



わたしもショーマも、わりと周りから、うわさの対象になることが多い。

わたしはそれでもいいと思って猫をかぶっているけど、たぶんショーマは気付いたらそういうタイプになっていた側の人だ。


そうやって勝手にいろいろ言ってくる人が本当は嫌なくせに、否定するのも面倒でテキトウな付き合いばかり。

親友って呼べる人も、一緒に長くバンドを組むような人も、ショーマにはいない。


わたしもそうかも。いや、まったく同じなわけじゃないけど。


紗依やあっこはわたしをすごく尊重してくれていると思う。深くは聞いてこない。

だからこそ久野ふみとのしつこさは、素直さは、面倒だったけど新鮮だった。

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