世界でいちばん 不本意な「好き」
なんで寧音なの。あきらめちゃうよ、そんなの。
だからぜんぶ、ぜんぶ飲み込んで。
「そうやって自分の都合の悪いもん見ないようにして、」
「ショーマくん」
手が解ける。
ふやけた視界で、広い背中が盾みたいに目の前に立つ。
「言いたいことはわかるけど、でも、言いすぎだよ」
味方みたいになってくれる背中の布を思わずぎゅうっと握りしめる。
「退けよふみと。全然変わらねえアリス、苛々するんだよ」
「そんなのショーマに言われたくない!」
「はあ?おまえ、ふみとに守ってもらえるからっていきなり強く出てくんのな!」
「自分がしたこと棚に上げて腹立つ!ほっぺ痛いんですけど!」
「いや、ちょっと、ふたりとも落ち着いて…」
「ショーマの浮気星人!あんたなんてあの優しい寧音にはふさわしくないんだからっ」
「おまえら仲悪いだろ!」
「仲悪くたって、寧音はわたしの大事なひとだもん!ふたりが付き合うのだって本当は大反対だったし!」
頭のなかがぐちゃぐちゃ。
何言ってるのかわからない。こんな、みんなが通るような廊下で、何やってるんだろう。
だけど止まらなかった。
ショーマと付き合っていた時間。
寧音のことが大事だという気持ち。
ぜんぶ、ぜんぶ消えてくれたらいいのに、思い通りにいくことはない。
だから飲み込んだのにショーマが急に突っかかってくるから、言葉が溢れて止まらない。
「寧音のことがちゃんと好きなら傷つけないで!寧音のこと一番に考えて、わたしなんかのことはほっといて、寧音の、くるしいこととか…そういうことに、もっと気付いてあげてよ…寧音って淋しがりなんだよ…」
ほんとうに、ショーマには何も言われたくない。
自分だってうまくできないくせに。自分だって、自分に都合の悪いことや自分には何もできなさそうだと感じることから目を背けるのが癖なくせに。
それだから、ショーマとわたしは、付き合った。
でもこのままじゃだめだって思ったから、自分のことを叱るように別れの言葉を言ったんでしょう。