世界でいちばん 不本意な「好き」


その日のお昼休みは、ついにショックで泣きだしたあっこに、ハンカチを渡しながら久野ふみとからただ告白されただけだったと聞いたことを伝えた。


「…だけど、やっぱり、ショックだよ」

「史都ファンは、こういうの耐性ないもんね」


しかしまあ、覆らず。

これはたしかに、はやめにあきらめて、はやめに学校をやめて、はやく元にいた世界に戻ったほうが久野ふみとのためかもしれない。


最初から無理があったんだ。

みんなが知ってる26歳の国民的アイドルが、一般の学園の高校3年生になるなんて。



不穏な空気が漂ったまますべての授業がおわってバイトに向かう。

あのあと意見を求められることはなかったからよかった。もうこれ以上悪化しないといいな。


当事者たちのことを思ってるわけじゃなく、ただ単に、面倒だから。


みんなよく他人のことで熱くなれるよね。

寧音が好かれていないこと、ショーマが好かれていること、それでいて久野史都だからってだけで、人が死んだみたいに大事件みたいだった。


わたしが何か、庇うようなことを言えば変わったのかもしれない。逆もそう。

みんな何かのせいにしたくて、わたしに意見を求める。


それでも…ひとりよりは、ずっといい。



「…げ」

「おーす」


カフェのレジ前に立つ金色の髪と間延びした声に、自分の顔がしかめっ面になったのがわかった。


「もう体調平気なの?」

「おかげさまで」


いや、メッセージすら送らなかったけどね。

オーダーも聞かずにホイップとチョコレートソースを追加したソイラテをレジに通す。


付き合ってたころから、いや、もっと前からショーマはこれ一筋。

このカフェでもそうだし、コンビニで買うお菓子も食堂でのメニューもいつも決まってる。季節限定とかそういうのには挑戦しないタイプ。好きなものだけ選ぶ。


< 55 / 314 >

この作品をシェア

pagetop