世界でいちばん 不本意な「好き」


自分でそう思うことすらはずかしくなる。

このひとはステージ上でもないのによくはずかしげもなく、歯の浮く台詞をのうのうと。…信じられない。


「ははっ。ふみと、おまえすげーな」


視界の隅で、わたしと同じくわたしのことをどうでもいいと思っているであろうショーマが、青色の髪を揺らして笑っていた。



ああもう、どうでもよくなる、ぜんぶが。

検討してよって。

どうせ黙って待っててはくれないでしょ。絶対、しつこくしてくるでしょ。


面倒な光景が目に浮かぶ。

それならもう、いっそのこと。



「……ふみと」


悪いけど、わたしは性格が悪いから、寧音も穂菜美ちゃんも正直好きじゃない。

あっこはちょっとだんだんしつこいし…べつに、ふつうに話せたっていいでしょ。アイドル様なんて眼中にないんだから。


切れ長の瞳をまるくして、こっちを見上げる久野ふみと。


芸能人。アイドル。雲の上の存在。

だけど同じピンクのインナーカラーが主張してくる。自分はわたしたちと何も変わらないよって。



「今日のお昼、カレー、…食べにいく?」



そう問いかけた声はちょっとふるえていて、情けなかった。


みんなにどう思われるんだろう。

あっこや紗依に、どう思われるんだろう。

とりあえず寧音との仲はよりいっそう悪化するね。それはまあいいか。



どうしてって。


そんなの、久野ふみとが、みんながうわさするようなひとじゃないことを、知っちゃったからだ。



「うん。すげー楽しみ」


ほら、だって、ただ食堂のカレーに誘っただけなのにこんなに屈託なく笑う。


不本意だけど。

それでも、検討を頼まれなくたって、もともとそんな非道にはなれなかったよ。


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