規制アプリ
いつもベビーフェイスの蕾の顔が、眉毛がないことで一気にいかつくなっていて、思わず噴出す。


クラスメートたちも驚いて蕾を見ていた。


「き、今日はちょっと寝坊して」


必死で言い訳をしているけれど、ホームルーム開始まであと15分以上はある。


寝坊したとは思えなかった。


「今からでもちゃんと眉毛かきなよ」


どうにか笑いを抑えた樹里が目に浮かんだ涙をぬぐって言う。


蕾は曖昧にうなづくだけで、鏡を取り出そうとはしない。


ただ机に座り、自分の顔を隠すようにうつむくばかりだ。


「どうしたの蕾?」


さすがに様子がおかしいと思ったようで、樹里が心配そうな顔になった。


「ううん、なんでもない。今日は鏡を忘れて来たみたいでさ」


「はぁ? 蕾が鏡を忘れてくるなんて冗談でしょう?」


「た、たまにはそんな日もあるし」


蕾はぶっきらぼうに返事をする。


樹里は不思議そうな表情を浮かべたが、それほど気にしている様子はない。


その時、不意に樹里と視線がぶつかった。


途端に樹里の目つきが変わる。


獲物を見つけた肉食獣の顔だ。


あたしは咄嗟に視線をそらすが、すでに遅かった。
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