俺が優しいと思うなよ?
「……先輩、コンペにデザインの担当者は来たんですか?」
「うん?いや、プレゼンしたのはヴェール橘の西脇さん一人だったな。「自分の思い浮かんだイメージを設計に描いてもらった」と言っていたかな」
俺の質問に、案の定、それほど期待しなかったとおりの返事が返ってくる。
──そう簡単に尻尾は出してこないか。
ヴェール橘の西脇なら何度か顔を合わせたことがある。しかし失礼ながらあの男にこのような繊細なデザインの発想力があるとは、到底思えない。会えば損得の話ばかりする西脇が、あのような癒し系のデザインが果たして思い浮かぶのだろうか。
もう何百回と見ている、細部まではっきりと覚えてしまっている「優秀賞」のテラスのデザイン。
──見間違うわけないだろうが。
これは、三波聖のデザインだ。
市営図書館のデザインが三波聖のものだと俺の脳が訴えているが、物的証拠は何もない。
ただ、彼女の才能は確実に成長していた。あの時のおかっぱ頭の人物が今はどんな人となっているかわからないが、俺の得難いあの才能が手に入るなら、彼女が多少難アリの性格でも構わないとさえ思えていた。
俺は響さんにヴェール橘で働いているであろう三波聖を引き抜きたいと話を持ち込んだ。彼女のデザインの個性、確定に近い推測であるが市営図書館の建築デザイナーであること、そして彼女に実力があること。
響さんは俺のタブレットのおかっぱ頭をじーっと見つめて「うーん」と唸った。
「成海くんも知ってると思うけど、ヴェール橘って社外に情報が漏れることがあまりないんだ。だからあそこの顧客はその信用を買ってるんだよ」
「人事情報を教えてくれる伝はありますか?」
「あの会社は暗黙の守秘義務があるらしいからね。営業部の人間ならともかく、事務の女の子でも聞き出すのは難しいかもね」
「ヴェール橘の女社長は若いイケメンが好きらしいです。響さんのイケメンぶりであのオバサンに近づいて聞き出す……」
「聞き出す前に僕が食べられてもいいの?」
「自分はイケメンだ」を前提にして、あからさまに嫌そうに睨んでくる響さんに「すみません」と平謝りをする。
響さんは軽く息を吐いた。
「そこまで言う君のことだから、三波さん…だっけ?彼女のことは頭に入れておくよ。でもそれより、彼女がヴェール橘にいるかどうかを確認しなきゃね」