俺が優しいと思うなよ?

元カノだった二条詩織とはどんな日々を送っていたか思い出してみるが、十年近く経っている記憶もまんざら残っているものだと思った。しかし今正確に言えることは、詩織とは昔馴染みの存在として自分の中で既に区切りをつけているということだ。
だから三波との接し方に詩織との何かを比べるものは、当然何もなかった。


三波を見た、パーティー会場から出ていこうとする後ろ姿が浮かぶ。いつも一つに束ねた長い髪も綺麗に結い上げられ、ハイウエストで切り替えのある深紅のドレス姿にドキリとさせられた。胸の大きさが強調されるデザインのドレスは色気を誘うものだったが、それ以上に緊張気味に周りを見つめる三波が可愛く見えた。
パールのネックレスを首につければ、ふわりと微笑んだ三波の顔が忘れられない。

そして、倉岸の言ったあの言葉。
『仕事中だけでなく、プライベートでも三波さんを手放せなくなっている』
この言葉を受け入れてしまえば、この気持ちに後戻りができない答えが出てくる。

だってそうじゃないか。
昨夜ベッドで寝ることを頑なに拒みソファで蹲って眠る彼女を抱き上げてまで寝室へ連れていった時点で、認めるようなものじゃないか。

一人の女として見ている、ということに。

今朝、ベッドの中で化粧をしていない素顔の無防備な寝顔を思い出す。この二日間で俺は彼女のコロコロと変わる顔の表情をたくさん見た。仕事の時と違う彼女は、あのタブレットの中ではにかむ幼顔の面影があった。ほんわかとゆっくり時間が流れる中に三波がいるような、そんな感じがした。
仕事だけでない、中身が垣間見えた女だからこそ一緒にいたいという気持ちが強くなる。

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