俺が優しいと思うなよ?


長い夢から覚めたように、無意識に大きなため息が出てしまったようだ。タクシーの運転手が「ご気分が悪いですか」とハンドルを手に声をかけてきた。
「すみません、大丈夫です」
と返事をして、手を額に当てる。

かなり強引なやり方で三波を手に入れた自覚はある。泣かせても怒らせても言い合いになっても、三波と接しているうちに「彼女」という人間が少しだけ理解できたような気もした。だから彼女が仕事しやすいようにフォローに徹してきたつもりだった。

思えばそれはいい意味でサポートであり、悪い言い方をすれば「監視」だ。三波をこの会社に入社させればそれで大丈夫だと思っていたのに、ずっと落ち着かない日が続いていた。
俺が欲しいのは「三波聖の才能」だ。

しかし。

──一体、なんなんだ。

自分の、一体何が引っ掛かっているのか分からない悩みを味わっている。大政建設のパーティーも、三波と親父を合わせる機会など他にもあるはずなのにわざわざアパートまで行って話をした。その上スランプになっている三波を連れ出してドレスを買い、更にお泊まりグッズまで買い揃えて俺の部屋に泊めさせた。もっと言えば食事まで手料理で用意したほどだ。

「……」

俺は、女に対してこんなに尽くすタイプだったか?

答えが出ない自問自答を繰り返す。

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