俺が優しいと思うなよ?


「三波さん。これ都市開発に関する資料ね。大政建設からのものだから目を通して、成海部長と打ち合わせしておいた方がいいよ」
と、仁科係長がファイルを届けてくれた。久しぶりにパソコンを扱う私は、ぎこちなくマウスを握りながら彼を見上げて「ありがとうございます」と答える。

私の「困っている顔」に気づいたのだろうか。
彼は画面を見ると「共有ファイルはここだよ」と、何の躊躇いもなくマウスにある私の手を彼は包み込むように手を置いた。
「?!」
私はびっくりして体が硬直したにも構わず、仁科係長は私の手の上からマウスを操作する。
「ほら、ここに社内メールと社外メールがあるでしょ?そして、こっちが共有ファイル。この中に各部署からの共有書類があるよ」
耳元で囁くように優しく説明してくれる彼の声に、体はガチガチなのに頭はクラクラしそうだ。
仁科係長の声は甘くとろけるような、まるでハチミツを連想させる。
「ね?」
白い肌にダークブラウンの柔らかな髪を揺らす彼は、目を細めてやんわりと微笑む。

例えてみるなら、仁科係長はおとぎの国から飛び出した、女性たちを一瞬にして虜にするハニープリンス。純和風な雰囲気の成海さんとは全くタイプの違うイケメンさんだ。

「もう大丈夫かな?」
と、仁科係長はそっと重なっていた手を離す。
「あ、ありがとうございます」
この一言を言うのが、精一杯だった。

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