俺が優しいと思うなよ?
ヴェール橘で仕事をしていた頃はそんな考えは持っていなかった。全て営業が「こういうイメージで」と細かい指示があり、それに基づいてデザインを描いていくのだ。私たちデザイナーの意見なんか必要ないと言われていたからだ。
戸惑いが表面に出ていたのだろうか。仁科係長は「それなら」と少し楽しげに考える仕草をする。
「教会といえば結婚式だよね。三波さんは独身だと聞いているけど、例えば、結婚願望の一つとしてどんな教会で結婚式をしたいと思う?」
私の頭の中はグルグルと仁科係長の声が渦巻いている。
──どんな教会で結婚式…。
三十歳を過ぎて男性との出会いもなく、実家とも疎遠になった私は「結婚」という言葉を捨ててしまっていた。だから今になってネットで「結婚とは」とこっそり検索する羽目になるとは。
「僕は真っ白な教会で結婚式をしたよ」
「……え?」
耳を疑ったような言葉が返ってきた。
仁科係長はその時を思い出しているのか、柔らかな表情を浮かべた。
「妻に純白のウェディングドレスを着せたのは、妻を一生をかけて僕の色に染め上げるため。真っ白な教会を選んだのは、これからの僕たちの未来の色を作り上げるため」
とても幸せそうに笑う彼に、その言葉が胸にじんわりと溶けていく気がした。
頭がほんわかと幸せのお裾分けを味わおうとして、はたと気づく。
「仁科係長、ご結婚されていたんですかっ」
あの時、なんの躊躇いもなく私の手に触れて王子スマイル全開にしてたくせに。と思いながら彼をジトッと睨んでみた。
仁科係長は「あれ?言ってなかったっけ?」と、惚けた。