俺が優しいと思うなよ?
「三波さん、大丈夫?顔色が悪そうだけど」
仁科係長が心配そうに顔を覗いてきた。ハッと我に返り、「大丈夫です」と慌てて返事をした。
「すみません、ぼんやりしてました。橘社長は多分、ご自分の納得するデザインを起こしてくると思います。彼女は完璧主義者ですから」
と、古巣のボスの性格を読んで笑って誤魔化した。
仁科係長も頷く。
「僕は橘社長に会ったことはないけど、かなりのやり手だと聞いているよ。今回はその科学館のほうに集中したいからという理由で、教会のほうを辞退したそうだよ」
「そうなんですか……」
その言葉に、私は内心ホッと安堵した。もう先日のように西脇が近づいてくることはないと思ったからだ。
「ところで三波さん。教会のデザインは決まりそう?」
優しい笑みを浮かべて、仁科係長は痛いところを突いてきた。
「いえ……仁科係長に色々アドバイスを頂いているのに、申し訳ありません」
と、心から反省してペコリと頭を下げる。
すると、彼は顎に手を当てて「うーん」と小さく唸った。
「そうだね。例えば……」
と、私へ向き直って話し始めた。
「三波さんは何度も現場へ赴いて教会の敷地以外のところも見ていると思うけど、そこを見てどう思ったかな?教会の前は広い公園になるでしょう。公園があって回りに遊歩道があってレジデンスの向こうに商業施設とオフィスビルがあって。科学館もタウンの注目にもなる」
彼はまるで都市開発の街が頭の中で出来上がっているように楽しそうだ。
「そんな中で自然と見えてくる教会のイメージって、どんな感じだと思う?」
「自然と見えてくる教会……」
頭の中で想像しようと目を閉じる。
新緑を照らす太陽。朝露を弾くブーゲンビリアの花道。窓ガラスが反射して輝くオフィスビル。
白いレジデンスから笑って学校へ行く子供たち。上階へ手を振って機嫌良く出勤する大人たち。気持ち良くジョギングする若者。公園で元気にラジオ体操をする高齢者たち。
そして。
そんな充実した日々を見守るように、高台に建つ教会。
誰もが求める憩いの場所。
一瞬、何かが頭の中を走っていく。私は慌てて引き出しからスケッチブックと鉛筆を取り出した。