エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「失礼。申し訳ない」
「いや、こっちこそ食い物に夢中で……」
軽く頭を下げてぶつかった相手を見ると、医者のコスプレをした……いや、本物の医者である産業医の郷田先生だった。彼の手にある皿には、山盛りの料理がのっている。
「郷田先生もご参加くださったていたんですね。しかし、仮装の方は?」
「今は見えないでしょうが、前面にコブラの頭がついたブリーフを穿いています」
「えっ」
郷田先生がコブラのブリーフ? いつも飄々としていて大人の雰囲気を漂わせている彼が、下ネタに走るとは意外である。
目を丸くしていると、彼は気の抜けた苦笑を漏らす。
「冗談ですよ、社長。仮装ってガラじゃないのでいつもの格好で参加させてもらってるだけです。しかし、どうしてそんなに慌ててらっしゃるんですか?」
「あ、ええ……。秘書の姿が見えないもので」
「ああ、彼女なら――」
郷田先生の言葉を聞いた俺は、焦って社内を駆け回っていた。
『吸血鬼に連れられて、出て行きましたよ』
航紀の、叶未に対する気持ちには気づいていた。友人として何年もそばにいるんだ。わかりたくなくても、わかってしまう。