エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
想像以上に大和さんは怒っていた。感情を押し殺したような低い声に思わず身が竦みそうになるが、私の決意も生半可なものではない。
ゆっくり彼を見上げ、言葉を紡ぐ。
「まだ、試用期間ですので……契約上、離婚の意思は尊重していただけるはずです」
「だから、なぜだと聞いている」
思わずと言った感じに声を荒らげた彼に、胸がギュッと痛くなる。
今すぐ『冗談でした、ごめんなさい』と謝って、その胸に飛び込みたい。でも、私にはそれができない。
「昨日、紅蘭さんに……告白、されましたよね?」
「え? ああ……」
大和さんは面喰ったように一瞬口ごもったが、頷いて肯定した。紅蘭さんは宣言通り、彼に想いを伝えたのだ。
ふたりのハッピーエンドの道筋はもうできている。私は邪魔者だ。
「大和さんには、彼女のような才能のある女性こそが相応しい。半年間あなたのそばで秘書をしていた私がそう思うんです、間違いはありません。昨夜はふたりでお食事でもしたのでしょう?」
「叶未? なにが言いたいんだ?」
この勢いで、言ってしまえ。私はバッグに手を突っ込み、退職願の封筒を握り締めると、その手を大和さんの前に突き出した。