エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
「お姉ちゃん、私のためにわざと引っ越しを遅らせてたの?」
『まぁね。一応、なにかあった時に叶未が帰りやすい場所があった方がいいかなって。ただ忙しくて引っ越しが億劫だったってのもあるけど』
最後に冗談っぽいひと言を付け加えたのは、きっと私に気を遣わせないため。いつもながら、姉のさりげない優しさには、感謝してもしきれない。
「本当にありがとね、お姉ちゃ――ひぁっ」
突然、背後から首に腕を絡めて抱き着いてきた大和さんに驚き、素っ頓狂な声が出た。
スマホを握ったまま振り向くと、彼は悪戯を成功させた子どもみたいに屈託なく笑っていた。
電話を邪魔されて怒らなきゃいけないところだけど、胸は不覚にもきゅんと鳴る。
『ど、どうしたの? 叶未』
「ごめんね、なんでもな……やっ、ちょっ、大和さん」
再び電話に集中しようとしたのに、首にくっついたままの大和さんが空いている方の耳にふうっと息を吹きかけるので、くすぐったくて肩をすくめた。
お風呂上がりで濡れた彼の髪が頬に当たり、鼻をかすめるシャンプーの香りにどきりとする。