エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
体調が悪いのを誤魔化すように関係ないことを考えていると、先輩がコップに水を用意してくれた。
ありがたく受け取って、わずかな量を口に含む。それが大丈夫だったので、今度はもう少し多い量を飲み、のどを潤した。
多少楽になった私は、先輩に付き添われて医務室に行った。丸椅子に座って郷田先生に症状を説明していると、医務室独特の香りにまた吐き気がして、ハンカチを口元にあてる。
「匂いがつらいのか?」
「そうなんです。さっきも、コーヒーの香りが鼻について」
「月経は正常か?」
「えっと……」
そういえば、七月は一度も来なかった。数日遅れるのは珍しくないけれど、丸ひと月来ないというのは初めてだ。
もしかして……妊娠?
郷田先生は、黙り込む私の様子からなにか察したらしい。デスクの上の電話に手を伸ばし、受話器を耳に当てる。
「社長、郷田です。奥さんの具合が悪いんで、病院に連れていきます。そんなに心配なさらなくても、たぶん、悪い病気ではないと思いますよ。ではまたご連絡します」
大和さんに対して妊娠の言葉は出さない郷田先生の気遣いがありがたかった。
大和さんとはいまだに恋人のような甘い生活をしていて、彼に子どもが欲しいかどうか聞いてみたことがなかったからだ。
「ほら、行くぞ産婦人科」
「は、はいっ」
一応、医務室に付き添ってくれた先輩には妊娠の可能性については口止めしておき、私は郷田先生に連れられて近所の産婦人科へ向かった。