エリート御曹司の秘書兼、契約妻になりました
『困ったな……午後から人と会う予定があるんだ。予備のスーツを会社に置いておけと、秘書に口酸っぱく言われていたのを今頃思い出したよ』
外れたボタンを航紀に見せたら、『だからあれほど忠告したのに』と目を吊り上げるに違いない。自業自得とはいえ、憂鬱だ。
『もしよろしければ、私がお付けしましょうか?』
『きみが?』
『ええ。総務課に戻れば裁縫セットがありますから。五分……いえ、三分もあれば縫い付けられると思います』
総務課の真面目で責任感のある彼女の言葉に甘えるか、このまま社長室に戻って航紀にお説教されるか。考えるまでもない二択だ。
『じゃ、お願いするよ』
この倉庫を見ればわかる。彼女の仕事は丁寧だ。
俺はスーツのジャケットを脱いで彼女に手渡し、そのまま一緒に総務課に戻ってボタンを付けてもらった。
その出来事をきっかけに、俺はふとした時に総務課を覗いては、叶未の姿を探すようになった。