カタブツ竜王の過保護な求婚
「何をやっているんだ、私は……」
執務室に戻ったカインは、頭を抱えてうめいた。
少しでもレイナと話をしようと、お互いを理解し合おうと、帰りは馬車で二人きりになれるよう取り計らったのに、かえって裏目に出てしまった。
自分が落としてしまった沈黙をどうすればいいのかわからなかったのだ。
「上手くいかなかったのですか?」
「ああ」
「でしょうね」
無情な秘書官の言葉に、カインは顔を上げて眉を寄せた。
「どういう意味だ?」
「いきなり二人きりになるなど、殿下には難易度が高かったでしょうから。しかも一度は手酷く傷つけた相手ですし。まあ、少しずつ歩み寄られてお気持ちを表されたらよろしいのでは?」
「どうやって?」
「食事を一緒になさるとか?」
「たったそれだけか?」
「おや、大切なことですよ。女性は食事に誘われたり、花や宝石を贈られたりすると喜ぶものですから。ほら、カミーラ様に宝石を贈られたときの喜びようはすごいではないですか」
別の女性の名前を持ち出され、カインは眉間のしわを深くした。
「では、宝石を贈ればいいのか?」
「いえ、そうではなく……ただ、妃殿下はいつもお一人でお食事なさっているそうですので、お食事を一緒にとお誘いなされば、お喜びなさるのではないでしょうか」
「……明日の夜だ」
「かしこまりました」
「ひょっとして、明後日の夜も」
「予定を調整いたします」
わざとらしく書類に目を落としたまま告げたカインに、フィルも常のまま答えた。