カタブツ竜王の過保護な求婚

 弾んだ声でアンヌたちに向かって手を振るレイナに、その場に漂っていたわずかな緊張もゆるむ。


「行ってらっしゃいませ」


 アンヌが応えて、皆が頭を下げる。レイナはわくわくしながらカインに導かれ、扉を抜けた。
 正面に立ちはだかる大きな常緑樹。長い年月を感じさせる大木は幾本もが土壁を超える高さで、空へと太い枝を伸ばしている。

 
「この木は……」

「そう、婚姻の贈り物にした葉冠の木だ」


 細長く光沢のある濃緑色の葉は、あの日の喜びを瑞々しく思い出させる。


「婚礼の日の前日、私が程良い枝を選んで切った時には、まだ花は咲いていなかったが……」


 カインの視線の先には、黄色みがかった白い花々が咲きほころんでいる。
 だが、その可愛らしさよりも、レイナはカインの言葉に気を取られた。


「あの葉冠はカイン様が作ってくださったのですか?」

「ああ、あれは私からの贈り物だから。だが、何度か失敗して、無駄に枝を消費してしまった」


 カインは言い難そうに続ける。


「それに紅玉は私が掘り出したわけでも、細工したわけでもない。曾祖母が大切にしていたものだ。彼女が婚姻の時に、夫となる曾祖父から贈られたものらしい」

「そんな大切なものを⁉」


 うなずいたカインは、太い幹と幹の間をぬって、さらに先へと進んだ。


< 99 / 207 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop