シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
「昨日クルザーでって言ったら、みんなに嫌がられた。すぐオレが何言っても金持ちってみんな言うんだ。
何話してもそう言うんだ」
「ふふ、
困ったね、お金持ちで」
「菜摘もそう思うか? 」
心からの素直な質問に、思わない人はいないよ、と櫂くんがちょっと可哀想になる。彼にしたら、ただ、生まれた時からの当たり前でしかないから、気が付くはずがない。
ありえない規模のお金持ちすぎて、周りももどうしていいか戸惑うだろう。
「事実はかえられないよね。普通に話してるだけだもんね。でも、他の人の気持ちを想像したり考えるのは大事かな、って思うよ? 」
「考えるの? 」
「いろいろ、考えるの。
自分がやった事に責任を持って、相手の気持ちがどうかな、ってちゃんと考える」
それは、先日のノートの件だ。櫂くんも、あーって顔をしてる。
「亜紀の話か⋯⋯ 」
「あき? 」
「怒らせた女の名前、」
と櫂くんがぷいと横を向いた。ノートの子、亜紀ちゃんっていうんだ。
「櫂くんのしちゃった事を考えて反省して、ちゃんと心からごめんねが伝われば、それでよかったんだと思うよ」
「ものにしなくていいのか? 」
「お金や物はあげない方がいいよ。気持ちはあげたらいいけど。
だって、はいはいごめんね〜って、ぽいぽいっお金で解決〜、ってなんか貰ったら、馬鹿にしてるのかな、って思わない? 」
「⋯⋯ それはむかつくよな」
櫂は家では大人に囲まれているし、学校では特別扱いだろうし、どんな態度をとれば煙たがられないんだろう⋯⋯ 。
「優しくして、相手の立場になってみるとか、
ありがとうって感謝するとか、
思いやるとか」
と何となく誰かさんを思い浮かべていたら、
「弥勒みたいにか」
と櫂に言い当てられる。
「⋯⋯ そうかな⋯⋯ 」
「何で赤くなるんだ? 」
「弥勒さんの事考えたらなるの! 」
と言ったら「そっかぁ⋯⋯ 」と真面目に菜摘の話を聞いている。