シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
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そんなこんなで。

不動も弥勒も所属している社交のクラブが、毎年山荘で家族パーティーを開く会場に到着した。

今夜は、立食のファミリー会で、クラブのメンバーがそれぞれ家族を連れてきている。

豪華な食事が並んでいる。

真ん中のテーブルには、さまざまなホテルのバイキングのような料理がずらりと並び、壁際には肉の塊を切り分けるローストビーフや、その場で握ってくれる寿司、有名料亭のうどんやそば、たこ焼きもある。

山荘の中は、大きな外向きの部屋が横並びに三部屋ほどあり、その部屋から外の広いテラスに出られる。テラスからは数段の階段がある。庭にもテラスにも、山荘の張り出した屋根を使って、上質なテントが屋根がわりに張られている。庭には鉄板焼きを焼いていたり、ゆったりと席が並べられていた。

昭和初期に有名な建築家が設計したと言う山荘は、まるで映画か芝居のセットのようだった。来ているメンバーも、すべてが映画の世界のようだ。
菜摘は少し気後れするような気持ちがしてしまった。

メンバーの中には、日中はゴルフコンペを楽しんだ人も多くいるから服装はカジュアルで⋯⋯ と言われても、ピンとこなくて、みどりさんに選んでもらって弥勒に買ってもらった高価なワンピースを着てきた。
色合いは、どうしてもどうしても派手なラメ入りのバラ色は無理だとごね、大人しい藤色の方を選んだ。が、もしかして、派手な方が良かったのかも知れなかった。

夕方の日が暮れ始めた野外に、所々松明とテント、雰囲気のある照明の中では、地味な色はそのまま、闇の方に溶け込んでしまいそうだった。

菜摘達は空いてる席がなくて、さがして、室内の、わりと人通りのある4人がけのテーブル席に座った。

弥勒は次々に人に話しかけられ、挨拶をぬうようにようやく座る。

部屋は人が行き来したり、笑いあったり、挨拶したり、社交場だから、上品な騒がしさに包まれている。

気おくれしている菜摘と違い、弥勒はすべてが様になる。菜摘に端っこ側の窓を背にした席に座らせてくれたので、弥勒の後ろは人が何度も行き来するが、そんなことは気にも留めないように、悠々と背もたれのある椅子に、自然に足を開いて座っている。

慣れたカジュアルな高価なスーツ姿。

初めて会った日みたいだ。
家とは少し違う、外の弥勒⋯⋯ 。

一子という赤ちゃんがいないと、子供のためにアクセサリーもつけず、子供のために家にいる菜摘はちょっと⋯⋯ なんて言うか、野暮ったい? と自分で思って、しかも元々知らない世界なのに、と自虐的になって、弥勒が挨拶したり、紹介されたり、挨拶されたり、紹介されたり⋯⋯ 。

もっと派手にしてくれば良かったんだな、と思いながら、今後はみどりさんに指導してもらうしかないと少し後悔している。

弥勒に、妻だと紹介されるんだから。

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