シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
✴︎



菜摘は帰るまで一言もしゃべらなかった。
目も合わせなかった。

櫂が気にし「おれのせいだ〜」と悩んでも、返事もできない。

車の中でも、泣くのを我慢していて、
櫂が必死で明るく話しかけた拍子に、ぼろっと涙がこぼれた。

綺麗な涙じゃない、真っ黒でドロドロして自分が嫌で、どうしようもない気持ちの涙。
櫂がオロオロするけど、構えない、余裕ない。



家に帰っても。
みどりさんにも挨拶できなかった。

ずっと弥勒と視線を合わさず、一子を寝かせて。

そのまま、一子の部屋でグズグズしてる、
今日はこっちで寝ちゃおうかな、

弥勒なんて一人で寝ればいい。
私の事考えながら!

弥勒は、彼女に上目遣いで、

『やろう? 』

とか言ったんだろうか。

『愛してる』

なんて言ったんだろうか。

頭を撫でて、抱きこんで、彼の愛を彼女に注いだの?

知らなくて、考えなくて、でも、ずっと彼の中にそれが体験としてちゃんと残ってて、わたしとしてるときも考えたり比べたり想ったり⋯⋯ 。
知らなかっただけで彼を独占できてなかった。

わざわざ言われるのも、言って欲しいのも違うし、言おうとして考えたり思い出されても嫌だ。

忘れて欲しい、いや、なければよかったのに、わたしだけならよかったのに。

掻きむしりたいぐらいに。

こんな嫌な気持ちがあるのを知らなかった。

彼の頭の中と体に残る彼女たちを、引き摺り出してはがしてしまいたい⋯⋯ 。

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