シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
言葉より雄弁に。
弥勒は目が覚めて、ぐったりとした腕を持ち上げて、菜摘の髪を撫でた。
昨夜は初めて弥勒の方が先に果てた。
始まる前は、まだ、弥勒の方がそれでも余裕があったはずだった。
まだどこかで、自分が菜摘をつつんでいたし愛していた。
ずっとそうだと思っていた。
でも菜摘に全てを命をかけたような愛をぶつけられて、あなたを愛していると、痛みをも受け止めると覚悟を見せられたような気持ちだった。
その姿に、圧倒された。
あんなに愛し合って、いつだって全てを忘れるぐらい、甘く愛し合ってきたが、もっと底がなくて、重くて、真剣で、本当に全てを忘れるってこんな事だったんだな
小柄で自分より体力のないはずの彼女の、その力強さや激しさ、目の前で燃え盛る炎。彼女の生に魅入った。
全てが引き摺り出されて、彼女一色に作り替えられるような。
菜摘の目元には涙の跡がある。指でそっとぬぐって、心が痛んだ。そっと、でも自分も全てをかけて菜摘を抱き込む。彼女の頬が胸に柔らかくあたった。
あんな風に、彼女の前で、前でなくても、気安く女性に触らせる、そもそも、最初の空港の帰りにすでに傷付けたはずだったのに、そんな自分に、まだまだ覚悟が足りていなかったと感じた。
もし、彼女に自分の前に知る男がいたなら、と考えるだけで感じる掻きむしるような嫉妬を、気安く触らせるのが菜摘の方だったらと思うと反対でなくてよかったと思う気持ちを密かに甘く感じながら、菜摘のドロドロした気持ちをすべて受け止めていくのだと思う。
そう思うと、愛は真面目で重いと思った。
弥勒とてべつにいい加減に生きてきたわけではない。
でもこんな生を知らずにいた以前の、のっぺりした自分には戻れないし、戻りたくもない。
彼女の乗り越えて前に進もうとする迫力。
生きる決意。
起こる事すべてを全部受け止めて、生きていくって事なのかもしれない。
腕の中で顔を埋めて、擦り寄って寝ている可愛らしい菜摘。
あんな激しい気持ちを内に持つ菜摘。
一子と菜摘に出会った時、弥勒が惹かれた彼女の強さや覚悟は、命をかけて一生愛する人だと、共に家族になってそれを守りぬく人だと、心がさらに愛で満たされる。
なんだかものすごく泣きそうな気持ちだった。