シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
✴︎



あ、十織くんだ。

他の人は背景にまざって、校舎と変わりなく見えるのに、十織くんだけは存在してる。

窓枠に手をついて、外を見ている。
風が彼の髪を揺らす。
おでこが広く見えて、貴重な素敵な物が見れてしまって心がじわじわ。
太陽が彼を照らす、
彼の顔や髪を照らす、
もともと空気が金色なのに、彼までが金色に光って、
おでこいいな。
背が高いのもいいな。
窓枠にのせる手がいいな。


早く近くに行かなきゃ。

いつものように、

もう少しもう少し、


「また来るんじゃない? あの子」
「付き纏われてるよね」
ツキマトワレテル

「いつも来て、迷惑じゃね? 」
メイワク

人の声が耳に聞こえて、理解したら足が止まった。

「何しにきてんの? あの子、だまって
不気味」
「何考えてるのかわからなくない? 」
ブキミ

「絵だってこわいよな
なんか、わからないものかいてて怖い」
コワイ


『可哀想だろ、』


十織くんの声。

「はは、イヌみたいだよね」

他の人の声。

「捨てイヌみたいな必死さだよねー」
ステイヌ

もう1人の声と、同意の笑い。

可哀想と言った抑揚のない声の彼の気持ちは見えない、わたしはかくれてる。

他の人のことなんて、どうでもいい。
万人に好かれるはずないから。

でも、
声。

同情。

私。ワンちゃんみたいな。可哀想さなんだ。

彼がどんな気持ちで言ったか、見えない
怖くて見れない。

彼は動じないから、声に感情が滲まないし、そこが素敵だけど。
こんな時は。

見ないと分からない。

《可哀想だろ》

そんな気持ちだったんだ。

可哀想って、

わたしって案外と可哀想なのかな。
捨て犬なのがやはり纏わりついてるのかな、わかるのかな、バレるのかな。

弥勒も菜摘もいて、兄弟もいて、櫂と愛莉もいて、
犬もいて、
おじさんやらおばさんやら、おじさんやらおばさんやら、おじいちゃまやら、おばあちゃまもいるけど。

でもやっぱりわかるんだろうか。

弥勒と菜摘のことを考えたら、グーっと申し訳ないような罪悪感で潰れそうに思った。あんなに愛してくれてるのに、わたし、人に可哀想がられてる⋯⋯ 。

捨て犬みたいに可哀想。

そんな色がしてるんだわたし。


逃げた。
近寄れなかった。

私が近寄らなかったら、私と十織くんは何もなくなるかもしれない。


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