シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
✴︎



最近は息がちょっと苦しくなる。
欲しくて欲しくて、心がグンってなる。
彼を見てあつくなって、
彼がわたしを気にしないから、冷んやりした気持ちになって、
届かないから、もっと頑張って近くに行って、
もっと見て、もっと感じたい。

他の人は野外でかいたり、静物をかいたりしてた。


「ぼくはそんな色? 」


急に彼が静かに抑揚なく聞いた。
冷たそうで、そのくせ何でも見てるんだ。

バレてる。

わたしが彼の空気を感じたいのをきっと彼は知ってる。

十織くんは余裕そうにわたしを見て、フッて笑った。

わたしは、今度は彼から見られて、心がグンッて掴まれたみたいになった。
十織くんがこっちを見たら、もっと喉がカラカラみたいになって、怖くて、自分がどんなだろうって。
十織くんの鋭くてまっすぐな視線が私を見てるのが怖くて、わたしに対して彼が何を思うんだろうとギリギリ心配になる。

心配になりすぎて、あわてて彼のわたしに向かって動いた空気を、すごいあわてて、描き加えて、汗が出そうなぐらい、あわてるし、こわいし、いいと思うし、

あわてた。

つまり動揺してる。

私にしては珍しい事だ。

十織くんは、私が書き足した、彼のわたしに向かって動いた空気をみて、


「ふっ」


って仕方なさそうに笑った。
顔の表情はそのまま、相変わらず彼は動かないんだけど、彼の空気は和らいだ。すこし、私にむかって、広がったように思う。

だからもっともっと。


わたしは金色の絵の具を特別に買っていた。
一本だけすごく値段の違う特別な金色。

十織くんが、わたしを感じている時、わたしは書き加える。

ぐーって、まわりが重い金色みたいになるから。

入れてくれないかな。
私の事。
彼の中に入れて欲しい。

心配なんだ。
彼は誰を入れるのかって。

もし見てないところで、見てない隙に、彼が誰かを入れてしまうのが。

何度も何度も、ずっと彼の近くに行ってしまう。

なんでも楽天的で動じなかったはずのわたしは、全然楽天的じゃなくなった。

見てない間の彼も心配。
彼が他の人といても心配。
誰かを空気に入れてしまったらどうしようって心配。

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