シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
✴︎



考えてみれば廊下であんな泣きかた、さすがだなって、ちょっとわたしは自分でも思った。
あんなタイミングをはかったみたいに、あんな風に泣いた。
だから美人でお金持ちなのに、清楚で大人しい子って言われるようになった。
天使だって。

十織くんへの好意は、彼は私のだって皆に知らしめた、まるで意図していないみたいに。

清楚はしらないけど大人しくはない。

顔がいいというだけで、ほんとは地味で厚かましいだけだ。
家ではキューピットさんで、学校では天使。

他の人はいいの。
十織くんはどう思ったのか、それが大事。


十織くんが耳元で言った。


「分かり合うのはいいんだけど、話して。
きみの全てが知りたいから」


いくらでも話そうと思う。
ずっと黙ってたけど、一生話し続ける、彼に。

だから最初に

『十織くん、好き』

って言った

『わかってる』

って、不敵に笑われた。

『しょうがないな』って、余裕に。

十織くんに話しかけられたら、うれしい、幸せ、うれしい、幸せ、もう何も隠さないし伝わる。
でも、その方がいいみたい。
だって、十織くんが嬉しそうにした。
彼の空気が、さわっ、てわたしにもふりかかる。

この前より、一昨日より、昨日より。

さわっ

さわっ

と彼の空気はわたしに近づいてくる。

もうすぐ、もうすぐだ。

もっともっと。



彼の空気に触れたと思った。
あつい、
あまい、あまい、
あつい、
それと、知らない、でも私に向かってくるもっと強い空気。

を。

感じた頃には。

一気に彼のあつい空気に、噛みつかれるみたいに、頭の先から足のさきまで、全身ペロリと飲み込まれた。
彼の中に入れられて、もちろん抜け出す気なんてない。

同じ色になれる未来が見える。

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