アンチテーゼを振りかざせ
「…あ、弊社のフロアのマップと、あとは色々館内設備の詳細をまとめてあるものなんですが…」
「それ、既にデータでいただいてますね。」
うん、と自身で確認するように告げた瀬尾さんは私を見やる。
そして。
「コピー無しでいきましょう。1人に配る紙も相当多いでしょうし申し訳ないです。」
「…え、でも、そういうわけには…」
「そうですよね。保城さんから言うわけにはいかないですね。
大丈夫です、先に戻って俺から香月さんに伝えておきます。」
のらりくらり、感情が乗っているのかいまいち掴みづらい声はそう提案する。
戸惑いつつも、でもそれは正直ありがたいと思ってしまった自分を、社外の人の前で認めてしまって良いのか。
押し黙った私に、目の前の彼は、保城さん、と名前を呼ぶ。
そして。
「これからも俺たちは何度もこちらへ来させていただくと思います。
負担になることは、今のうちにこっそりやめませんか?」
ゆるく、少し子供のようなあどけなさで笑ってそう告げられた瞬間、確かに胸が鳴ったのには気付いていた。
きっかけなんてそんなものは、
あまりにも些細で取るに足りない。
だけど私は、
今日もちゃんと化粧をしてて良かったって。
白いブラウスに薄いピンクのお気に入りのスカート、ちゃんと可愛い服装してて良かったって。
もう、そう思ってしまったから。
『いつかまた好きな人ができたら、
今度は"惜しい"だなんて言われない自分で居たいよ。』
そうして私の不毛な片思いは、突然、始まった。