アンチテーゼを振りかざせ




いつもの席ですよね、そう言おうとした瞬間。

その男の後ろにいた小柄な女に気付いて
言葉も、動作も、全てが止まる。



「こんばんは」

男と同じようにそう挨拶してきた、その高めの声を俺は確かについ最近、耳にした。


でも、あの時とは何もかもが違う。


大きめの瞳を細めて、丁寧に色の塗られた唇に弧を描きながら花が咲いたように笑って。

髪型も服装も、干物女の時とは似ても似つかない。




___でも。


戸惑う俺を察したのか、男はカウンターでも良いかと聞いてくる。

案内を終え、とりあえずおしぼりを差し出した時。


「ありがとうございます。」

しっかりとこちらへ告げた女の声は、やっぱりコンビニで聞いたものだと、根拠もなく言い切れた。



いつもこの男が一緒に来ていた、ハイボールが好きなよく笑う女はどうしたのか。


微妙なもどかしい距離感で、いつも同じ席でお酒を飲んで笑い合ってる2人をなんとなく観察するのは、すっかり俺の趣味の一つになっていたけど、本命がこの女?


ぐるぐると、流石にただの店員が聞けるわけもない疑問が浮かんでは消えて、バッシングのスピードが少し遅くなっていることに気づく。

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