アンチテーゼを振りかざせ


そこから暫く経って。

いつも焦ったい距離感を出し続けている常連2人が、漸く付き合ったのだと知った。

雰囲気が劇的に甘くなるようなことは、無かったけど。


「ありがとうございましたー」

「ご馳走様でした。」

「おやすみなさい。」




出口まで見送った俺に丁寧に挨拶をした2人が出て行った後で、クーポンを渡し忘れたことに気づく。



慌てて外へ出てみれば、もう男女は駅の方へと向かっている途中だった。


後ろから声をかけようとすると


「枡川さん、顔真っ赤ですけど。」

「そんな飲んだかなあ。」

「すぐ赤くなるくせにお酒好きなの本当厄介でしんどい。」

「しんどいて。
でも私は赤くなってからが勝負みたいなとこある。」

「いや、なんの?」

そのまま顔を見合わせて笑って、触れ合った指先をあの2人らしくゆるく絡ませる瞬間を見てしまった。



やっと、まとまったのか。

そう思うと思わず笑みが漏れると同時に、どうしても思い出す女が1人、居る。



コンビニでたまに今も見かけるけど目的の購入物ははっきりと2つに絞られていて、それ以外には目もくれない。

"あの時"、カルピスサワーを飲んでいたはずの女は泣き出しそうなくせに堪え続けて、最後はビールを仰いで。

「瀬尾さんは本当にヘタレですね」と静かに笑うその表情が、やけに焼き付いていた。

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