アンチテーゼを振りかざせ




八恵さんからの連絡もかわし続けて、何一つ踏ん切りの付けられない日々で。


常連過ぎる枡川さんと一緒に来店した女に、目を見張った。

干物姿では無いけど、もう流石にすぐ認識ができてしまう。


これはどういう状況だ、修羅場でも始まるのかと肝を冷やす俺に全く気付かない笑顔の枡川さんは、席に着くといつものようにビールを"2つ"、注文した。



そこから暫く経って、食事もそこそこ進んだ頃に再び生ビールがオーダーされた。

今日は、あの時のような壊れそうな笑顔を貼り付けてはいない。




でも、枡川さんが席を立った空間で1人、今にも消えそうな声で


"…偽善者、なのかな。"


その細い声を聞いた瞬間、もうなんとなく自分の中で抑えの効きそうに無い衝動があるのを嫌でも感じていた。



「_____清楚つくりこむの、やめたの?」

「………は?」


挑発的にそう声をかけると、怪訝さ全開の大きな瞳が、漸くこちらを見向く。

そうして直感的に抱いた気持ちは絶対、これからも誰にも教えてやらない。



"こいつ、俺のこと好きになれば良いのに。"








< 161 / 203 >

この作品をシェア

pagetop