アンチテーゼを振りかざせ
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「…つかれた。」
真っ暗な夜の静かな道で、1人弱く吐き出した言葉はうやむやに消えていきそう。
今日も当たり前のように通常業務以外に降ってくるものが沢山あって、スケジュール通りには全くいかずに残業をする羽目になった。
経理部のおじさんに、コーヒー片手に
「印鑑証明書を20部すぐ用意してくれる?」
と言われた時には、
"そんなに在庫あるわけないじゃん馬鹿なの!!"
と言うのをグッと耐えて笑顔で了承し、法務局への追加請求の書類を準備した私は、本当に偉い。
社内だからって何でもかんでも無茶が通ると思わないで欲しい。
「よろしく〜」なんて軽口で去っていった姿を思い出すとまた、はあ、と、苛立ちを伴った溜息が宵闇に落ちる。
今日は、リニューアルプロジェクトに関する仕事は特に無かった。なんだかそういう日は、心が肩透かしを食らうような、そういう気持ちを抱く自分が居る。
でもそれはあの、いつも優しく笑っているけど絶対厄介そうな香月課長の思うツボな気がして、すぐに振り払う。
そうこうしているうちに、無事に自分のマンションに到着した。社会人になるタイミングで、大学の時の寮から引っ越した此処は、もうすっかり「帰る場所」になった。
一応オートロックも付いているし、凄く広いわけではないけどウォークインクローゼットがあったりして、割と気に入っている。
部屋に入って、シートで化粧を落としたら。
いつも笑顔でおしとやかな保城 紬は、営業終了。
「洗濯物、溜まってるなあ。」
そう事実を呟きつつも、特に洗濯を回すことはせず、ただカゴの中のそれらに今日の可愛いワンピースが追加された。
そうして、着古し過ぎて自ずとメンズサイズになってしまっているトレーナーに、スウェットズボンに着替えて。
前髪は大きめのバレッタで上げて、コンタクトから大きめの茶色のフレームのメガネに変えてしまえば。
「……我ながら、ひどい。」
部屋の中の姿鏡で自分を確認し、素直にそんな感想が漏れるほどに立派な干物女が完成していた。
ここまではいつもの流れだけど、今日は、金曜日。
ラグの上に座って一通りSNSをチェックし、壁にかかっている時計を見ると0時を回ろうとしていた。
「行くか。」
そう呟いた私は立ち上がって、バッグの中から、インスタで一目惚れしてボーナスで思い切って買ったお財布と、家の鍵を取り出し、再び玄関のドアを開けた。