アンチテーゼを振りかざせ
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「今日は私、本当にご馳走するつもりで…!」
「やめてくださいよ。奢られる理由無いです。」
「……リーフレット、本当に嬉しかったんです。」
お店を出て、店員さんとの挨拶も終えたところで枡川さんは私にそう伝えてきた。
この人は、リーフレットに営業で助けられたお礼をしたかったと主張している。
でもお会計の時にそれは許さないと、私も瞬時にお金を出したので彼女の思惑は叶わなかった。
必死に、何なら少し滑稽な態勢でうちのオフィスのあらゆる場所の寸法を測る枡川さんの後ろ姿。
それを写真に収めて掲載した記事。
【許可を取っているようで取っていないので、流石に後ろ姿でのご紹介ですが。笑
このプロジェクトを仕切ってくださっている、〇〇のリーダーMさんです。
何度も何度も足を運んでヒアリングして下さって、隙あらばこうして寸法を測ったりオフィスを歩いていらっしゃいます。
後ろ姿が、愛らしいです。】
全体のレイアウトはチームのみんなで決めた部分もあるけれど、いつも必死に働いてくれる彼女を紹介するその文章は、私が書いた。
「…保城さん。本当にありがとうございました。」
「何回お礼言う気ですか。ただの、ついでです。」
「それでも良いんです。嬉しかったので。
営業先で、話をする時に勇気をいただきました。」
眉を下げて笑って、丁寧にお辞儀をする彼女はあまりに真っ直ぐで。
同時に降り積もる罪悪感のようなものが、私を支配しそうになる。
「…保城さんは、向こうの駅ですか?」
「はい。では此処で。ありがとうございました。」
「…あ、」
「?どうかされましたか。」
「…いえ、何でもないです。
プロジェクト、最後までどうぞよろしくお願いします。」
「(また、仕事の話に戻ってる。)」
ぺこりと再びお辞儀をした彼女に、私はふ、と息を零した。
"…保城さん、あの、"
あの時、彼女の言葉を遮った。
_____"息が、し辛そう。"
あの変な店員の言葉が、やけに思い出される。
私はやっぱり、偽善者だ。