アンチテーゼを振りかざせ
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「______保城さん?」
杏と別れてすぐ、駅前のパン屋さんに寄って改札へ向かおうとしたところでそんな風に声をかけられる。
後方から聞こえてきた落ち着いた声に振り返ると、そこには短髪の黒髪で、垂れた瞳が印象的な優しげな男性。
「…南雲さん…?」
前回会った時はスーツ姿だったから、ラフな服装で雰囲気がより柔らかくて、記憶を手繰り寄せるまでに少しロスがあった。
彼は、私が意図せず行くことになった、
瀬尾さんが企画した合コンに来ていた人だ。
確か、瀬尾さんが所属するデザイン部の先輩だと言っていた。
「あの時、ごめんね。
しかも相当煩い2人が居たから、
俺ら全然喋られなかったし。」
困ったように笑って謝罪する彼を見てると、なんとなくあの疲労困憊の時間を思い出してきた。
…古淵さんと、川田さん。
勢いよくマシンガンのように喋る2人にあの空間の全て、食べ尽くされていた気がする。
「…もはや珍獣を見る会だったよな。」
そんなことないです、とは言えずただ眉を下げると南雲さんは笑っていた。