アンチテーゼを振りかざせ
何か、何か言わなければ。
「_____え!?」
喉に突っかかって全く音にならない言葉に焦っていると、後方からそんな風に驚嘆の言葉が聞こえた。
それを契機にして封印を解くように、勢いよく男から距離を離した私は、その声の方を見やる。
両手を口元に当てて、目力のある形の良い瞳を見開いた状態で「驚いてます」をありありと伝えてくる、女性。
"貴女も梓雪を狙って、ここへ通ってるんですか?"
暗めの茶髪のショートヘアがよく似合う彼女は、一度あの居酒屋で出会った人だ。
「…八恵さん。こんなとこまで来て何してんすか。」
はあ、と急に疲れを溜め込んだ声での言葉もお構いなしのように、ズンズン私達に近づく彼女は、
「あんた!私のメッセージは適当に流すくせに、こんな公共の場で彼女といちゃつきやがってどういうつもりよ!?」
もはや男の胸ぐらを今すぐに掴みそうな勢いだ。
「メッセージ返してるんだから怒られる筋合い無いですよね。」
「正論言わないでくんない?」
「…つか紬、いちゃつかせてくれないし。」
ぎゃあぎゃあと急に煩くなった空気の中で、不服そうな最後の男の否定は、的を全く得ていなくて頭痛がしてきた。
「…あの。」
私を置き去りにして言い合う煩い2人を遮る。
そして、
こちらに視線が向けられるのを確認した瞬間、
「私は、この人と何も関係無いです。
____失礼します。」
そう言い残して、足早にその場を立ち去った。
あんな男の気まぐれになんて、付き合ってられない。
そんなこと分かりきっている。
だから、いつものような笑顔では
否定を告げられなかった理由は、探したりしない。