アンチテーゼを振りかざせ
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「…課長。」
「ん?」
「今日の運営委員会の議事録です。確認お願いします。」
「……へ?」
課長の席までそう言ってファイルを差し出すと、ポカン、という効果音がよく似合う間抜けな顔がこちらを見ている。
「…今日は第2弾のリーフレット内容を決定しました。
完成予定の、1人個室についてを主に取り上げます。
個室の予約方法や具体的な使用開始のスケジュールなど、事務的なことの紹介も勿論しますが、どういう方に、どういう時に使用して欲しいか。
そういう思いについても、掲載予定です。」
「…う、うん…?
あの、保城さん達にお任せするよ?」
この人は、その言葉をよく口にする。
それが私を信用してるだとかそう言うことじゃなくて、責任転嫁なのだと知って「嗚呼、仕事ってこんなものか」と、早々に絶望した自分が居た。
___だけど、私はまだ諦め切りたくは無いから。
「……それは、部の総意だと考えて良いですか?」
「え?」
「この委員会は、総務部管轄なので。
昨日のように他部署からの問い合わせはうちに来ます。
その時何か言われたら私は、総務部の総意としてこの方針を貫いていると、伝えて良いですか?」
「…それは、僕も把握してないことを言われてしまうのは困るけど…」
「はい。
なので議事録をお渡ししておきます。
過去の委員会の内容も全て記してあります。
今まで、詳細をいつもご報告せず申し訳ありませんでした。今後は必ず共有させていただきますので、よろしくお願いします。」
分厚いファイルをそっと課長のデスクに置いて、頭を下げた。
課長が「分かった…」と腑抜けた声ではあるけど了承したのを確認して、私は自分の席へと戻る。
座ってマウスを握ろうとした時、少しだけ自分の手が震えていることに気付いた。
他の人からしたら、気にも留めない会話だったかもしれない。
だけど仕事を投げられては笑顔で受け取ってきた私は、あの人にあんな風に自分の意見を伝えたのは初めてだった。
"1人個室の使用について、どういう方に使っていただきたいか、部屋のコンセプト含めて掲載したいです。事務的なことだけなら、態々リーフレットにする意味は、無いと思います。"
先程の委員会の会議は、初めは意見が出にくい状況だだった。
第1弾の内容について苦情が来たことを知っているからこそ、みんなが慎重に意見を選んでいる雰囲気で。
だけど私は、その中で自分の気持ちを伝えた。声はやっぱり、ちょっと震えた気がするけど。
「第2弾は文句言わせない」と、賛同してくれるメンバーの中で、瀬尾さんが優しく笑っているのが視界の端で映っていた。