―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
助手席の窓が下がり、龍道コーチが顔を突き出した。

透子は車に近づいた。

「本当に何もいらないのかよ」と龍道コーチが念を押してくる。

透子を見上げる瞳に、街灯の明かりが映ってキラキラしていた。

「コーチって本当にきれいな顔してるのね。あの高校生がこんなになるなんて」
「なに親戚のおばちゃんみたいなこと言ってんだよ。それよりなんか欲しいもの言えっつーの」
「本当にいいって。あ、それならレッスン中、他の人と平等に優しくしてくれる? 私にだけやけに厳しいよね」
「それだけ?」
「うん」

しばらく無言で透子の顔を見つめていた龍道コーチは、「ばーか、優しくなんてしねーよ」と言って急発進し、走り去っていった。

「ばか?」

なぜ怒る? 
透子はぽかんと遠ざかる赤いテールランプを目で追った。

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