―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
特別扱い

田淵はいろいろなコーチのレッスンを受けた結果、やっぱり龍道コーチのクラスに決めたという。

ルックスがいいのもそうだが、体の動きを的確に把握したうえでその人に合ったうち方を見つける。教え方が抜群に上手いのだという。
そういわれてもラリーもろくに続けられない初級レベルの透子にはそのすごさはがよくわからない。

「それにしてもあんなカッコいい男にテニス教えられたら誰でもクラッとするよな」
「おかげでクラス中が桃色の吐息でむせ返るようよ」
「透子さんも?」
「私の呼気はストレスで灰褐色だと思う」
「テニスってそんな不健康なスポーツだった?」

それについては透子自身も大いに疑問を抱いていることだ。
ボールを追って走りまわり、スパン!という快音を響かせながら球を打つ。
スカッとするスポーツのはずだった。
けれどそれはテニスがある程度上達してからのことで、そこに至るまでは長い道のりが待ち受けているとは思いもしなかった。
おまけに人間関係も面倒で、なんだかなあとつぶやきながら透子は帰り支度をして席を立ち、お先にと声をかける前に隣の田淵も立ち上がった。

「え?」

田淵の大きなリュックから突き出ているテニスラケットの柄を指した。

「僕もこれから」
「龍道コーチ?」
「そう」
「16時の龍道コーチのクラスなら私のクラス、初級よ。曜日、間違えてない?」
「初級だよ。せっかくだから透子さんと一緒に受けようかと思って。マヤさんに聞いたら下のクラスを受けるのは別に構わないっていうし」
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