―17段目の恋― あのときの君とまさかの恋に落ちるとき
「あれ? コーチ、なんで私の部屋にいるの?」
「タクシーで寝たまま動かないから、俺がここまで運んでやったんだよ」
「そっかあ、ありがとう……あ! そういえばなんで私がゆすりなのよ」
「なんのことだよ」
「私、助けたかわりに付き合えなんて迫った覚えないから」

言いながらも透子の頭がこっくりこっくりと揺れ始める。

「ああ、あれは――」
「私、いくらなんでもそんな真似、ぜったいにぜーったいにしら(な)いから」

もはや口もまわっていない。
こっくり、こっくり。無意識に体ごと揺れる。

「あれは――」
「わら(た)しになら何をしても害はないだろうって、ひろ(ど)いじゃない」

どんどん怪しくなる呂律で透子は独り言のように抗議していた。

「そんなことは言ってない……おい、文句言うのか寝るのか、どっちかにしろ」

そんな龍道コーチの声も、透子の中では霧のようにぼんやり舞うだけだ。

「そりゃあ、確かにどうでもいい女ら(だ)ろうけど。そんなあざといことしら(な)いもの……」

頭がふらーりふらーり波のように動く。

「もういいからだまれ」
「ら(だ)いら(た)いさ……」
「おい、その口、ふさぐぞ」
「ふら(さ)ぐ? ふら(さ)ぐってなに?」
「こういうことだよ」

龍道コーチの唇が重なった。
といっても透子目をつむってつむって寝かかっていたので、何が起こったのかはわかっていない。
ただなにかが唇を覆い、かすかにミントの香りが匂った。
そんなことを感じながら本格的な眠りの世界に落ちていった。
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