秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
その日が来るとすれば、結婚するときくらいか。

楽しみでもあり、寂しくもある。

それでも、妹が嫁に行くまで支えてやれたことは兄の誇りと言えるだろう。

「親父。お袋。俺、結構頑張ったよな」

グラスをひとつ取り出して、ビールの残りを注ぐ。

リビングの端にある小さな仏壇に供え、俺はそっと手を合わせた。



涼晴に海外留学の話が持ちあがったのは、それから三カ月が経った頃だった。

留学先で縁談をすると聞いていたから、これを機にふたりは別れたのだろうと思っていた。茜音には可哀想だが、涼晴には涼晴の人生がある。

しかし、涼晴がアメリカに旅立って約三カ月後、茜音の妊娠が発覚する。

「父親は死んだ」と言い張る茜音に、俺は「父親は涼晴じゃないのか」とよっぽど言ってやろうかと思った。

だが、俺の口から無理やり言わせるようなことではない。これが茜音の決断ならば、俺が口を挟むべきではないのだと必死に耐えた。

父親のいない子を産むと言いだして、苦難の道を突き進もうとする妹を泣いて止めようとした。

だが何度問い詰めても、茜音は父親について頑として口を割らず、こうなったらふたりをとことん信じて見守ろうと疑うことをやめた。

そんな中、涼晴が縁談を断り帰国してきた。やっとふたりは家族になれるのではないかと期待を抱く。

しかし、茜音はいつまで経っても晴馬のことを涼晴に打ち明けようとしない。

どうしてだよ。本当に父親は涼晴じゃないって言うのかよ。

なにもできず、妹から頼ってももらえない自分の不甲斐なさに涙がこぼれた。



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