秘密で子育てしていたら、エリート外科医が極上パパになりました
完全にテーブルに突っ伏した涼晴の代わりに、今度は兄が酒を呷る。

ぷはぁ、と景気のいい声をあげてグラスをテーブルに置くと、今度は涼晴が暗い顔を上げた。

「俺としては断りたいが、俺の一存で済む話ではなくなってきている。日本の大学病院と向こうの医療機関の架け橋だとか、体よく押しつけられて」

「勝手に人を橋にして、その上を渡ろうとしてんじゃねぇって言え」

「ははは」

涼晴の乾いた笑い声を耳にしながら、私はその場をあとにした。

家を出て、しばらく近所をうろつきながら、涼晴の言葉を思い出す。

『待っていてほしい』

あのときはきっと、縁談の話なんてなかったのだろう。真剣に私との未来を考えてくれていた。

でも今は――。

「涼晴は、アメリカで結婚しちゃうのかな……」

星のない空に向かってぽつりとつぶやく。真っ白な吐息がわっと広がって、すぐに消えた。

真面目な涼晴のことだ、きっと周囲の期待に応えたいと思うだろう。周りの反対を押し切って、愛を貫き私と結婚――なんてするようなタイプの人じゃない。

彼のことを、あきらめるべきなの……?
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