偽りの夫婦
ケーキの箱を開ける。
「チーズケーキとフルーツタルトか。
陽愛はチーズケーキだよね?」
「あ、違うの!」
「ん?陽愛はチーズケーキ好きでしょ?何が違うの?」
陽愛は少し恥ずかしそうにもじもじして、
「フルーツタルトも食べてみたくて……半分こしない?」
上目遣いで、紫龍を見た。

「フフ…いいよ!そんな可愛いお願い…聞くに決まってる!大歓迎だよ!」
「ほんと?よかったぁ」
「じゃあ…はい、あーん!」
「うん…あーん。
ん。美味しい~!」
「陽愛、俺も食べさせて?」
「うん…はい、あーん」
「ん!確かにうまっ!」
「フフ…」
お互い微笑み合った。

その後は、ソファーでまったり過ごした。
ソファーに座った紫龍の足の間に、陽愛が座っている。
陽愛の結婚指輪を触る紫龍。
「陽愛…手、小さいね」
「そうかな?」
「指も細いし…綺麗」
「紫龍こそ、手…綺麗。男の人なのに」
「少し…痩せた?指輪がブカブカになってきてる。
明日、サイズ合わせてもらおうね」
「うん…」
「あとさ…。
俺とお揃いのピアスしない?明日買いに行こ?」
そう言って、陽愛の耳に触れる。

「うん…」
「もっともっと、陽愛とお揃いが欲しい。
全部…俺と…一緒に…なろ…?」
紫龍の穏やかな、心地よいでも重い声が陽愛の中に響く。
いつもこうやって、陽愛の頭に刷り込むのだ。

「うん…紫龍がそう言うなら…いいよ」

少しずつ……少しずつ紫龍から放れられなくなってく、陽愛。
心も身体も………

どんどん、俺に落ちてね?
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