偽りの夫婦
次の日の朝。
鳥羽が出勤しようと外に出ると、自宅前に黒塗りの高級車が止まっているのに気づく。

そして運転席から、中年くらいの男が出てくる。
「鳥羽様ですね?」
「は?
はい、そうですが……何か?」
「紫龍様がお待ちです。お送り致しますので、車へどうぞ」
「だから、理由は何ですか?」
「お話があると申しております」
「俺はお話ありません」
「そうですか。では…そのようにお伝えしておきます」
「はい、よろしく頼みます」
そう言って、去ろうとすると後ろから、
「あ、そうだ」
「は?」
鳥羽が振り返る。

「鳥羽 寛文」

「え?」
「彼も、あなたのことをとても心配されていましたよ」
「お前等…弟に会ったのか?」
「フフ…参りましょう。車へどうぞ?」
鳥羽はしかたなく、車に乗り込んだ。

「やっぱ最低だな!ヤクザは」
「あなたも十分最低ですよ。
それに紫龍様と陽愛様のことも、かなり調べたんでしょ?まぁ、こちらのあなたのことをかなり調べましたが」

そして、あるホテルの最上階にあるラウンジに連れていかれた。

「紫龍様、お連れしました」
「ん」
紫龍は、見た目が怖そうな男達に囲まれて、一番真ん中の高そうな椅子に一人、座っていた。
明らかに紫龍が一番年下なのに、周りの男達の方が恐ろしいのに、紫龍の存在感がとても重く圧迫感があった。
「では、紫龍様。私はこれで」
森井がラウンジを出ると、
「そこ」
と紫龍が自分の向かいの席を指差す。
「座って」
言われた通り、鳥羽が座った。
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