偽りの夫婦
「◯◯って言うクラブの前に……」
紫龍が入っていったクラブの名前を伝えた。

『は?なんで……?』
電話越しに紫龍の雰囲気が真っ黒くなっていくのが、わかる。
電話越しなのに、凄まじい圧迫だった。

『そこで待ってて…いい?動くなよ……』
プツッと通話が切れて、すぐに紫龍がクラブから出てきた。

「陽愛」
クラブの出入口から、紫龍が出てくる。
そして、真っ直ぐ陽愛に向かって、ゆっくり歩いてくる。
時が止まったようだった。
時が止まったように、動けない。息苦しい。
物凄い圧迫感で、息をするのを忘れる程に。

陽愛の目の前で立ち止まると、
「いい度胸だね…陽愛。
俺との約束を……破るなんて…」
「━━━━!」

黒く、重たく━━━━━
【君の旦那は恐ろしくて、魔王みたいな人だよ】
鳥羽の言葉が蘇る。
まさに“魔王”のようだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ンン……むふぅ……んぁ…」
車に乗り込むと、すぐに紫龍に口唇を奪われた。

「ンン…待っ、て……紫…龍…んぁ…お願、い…」
「許されないよ……真っ直ぐ家に帰らずに…一人で……しかも、あんなとこに…」
「ごめんなさ…い。でも…ちゃんと……訳が…」
「理由なんて、関係ない……俺との約束破ったことが、許されないんだよ…」
口唇を撫でながら、語りかけるように話す。

「だって!」
「あ?」
益々…雰囲気が黒く重くなる。
怖い━━━
「紫龍が女の人といたから…」
「は?」
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