偽りの夫婦
「陽愛?」
「ん?」
「アレ、誰?」
「え?」
「さっきの“アレ”」
「もう、アレって言わないで!
彼女は職場の同僚だよ」
「ふーん」
「気になる?」
「別に」
「そう…よかった」
「帰ろ?帰って、陽愛を抱きたい…!」

帰りつき、ベットに組み敷かれている、陽愛。
「紫龍…カッコいい…」
紫龍を見上げ、呟く。
「陽愛…可愛い~」
紫龍も熱っぽく、陽愛の頬を撫でながら言った。

「ご飯…食べないの?」
「今はいらない。陽愛がほしい…」
「うん…」
「もっと…オレに落ちてね…!絶対放さないから…!」
「紫龍って、色んな紫龍がいるね。多重人格があるみたいに。
甘えて可愛かったり、とっても優しくて穏やかだったり、とても恐ろしくて……怖い時もある…」
「そうかも?トップにいると、ある意味…普通ではいられないんだ」
「社長さんは大変だよね……」
「まぁね…ほら、もう何も考えないで?」
「うん…」
「てか、俺が何も考えられなくすればいいのか……」

陽愛の口唇を塞ぐ。
「ンン……」
だんだん深くなっていく。
お互い酔ったように、貪り合う。
苦しいのに、口唇を離せない。
陽愛は必死に、紫龍にしがみついていた。

「陽愛…」
「ん…紫、龍…」
「左手…貸して?」
「うん…」
左手を差し出す、陽愛。
その小さな手を掴み、自分の口に持っていく紫龍。
キスをして、薬指の指輪に触れる。
「この指輪も、陽愛が俺だけのモノだと言う証だよね?」
「うん…」
そして陽愛の左耳のピアスに触れ、
「このピアスも…」
「うん…」
「だから…どんなことがあっても……たとえ、記憶を取り戻しても…俺から放れないでね…?」

「うん…」
陽愛はただ、黒く重い雰囲気の紫龍の瞳を、酔ったようにボーッと見つめていた。
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