偽りの夫婦
「え?」
「でもだからって、奥様を責める理由もありません。
そんなことしても、あの方が悲しむだけです」
なんの曇りもない真っ直ぐな、三好の目。

「だからって理屈じゃないでしょ?三好さんは私が憎くないんですか?
嫉妬しないんですか?」
あまりにも三好の目が綺麗で、陽愛は自分が穢れているようで、目を反らして言った。

「そうゆう気持ちは、忘れました……」
「え?」
三好に向き直る。

「私はもう…そうゆう気持ちをとっくに越えてます。
ただ、傍にいられたらそれで十分です。
それに………
あの方から奥様を引き離したら、きっと壊れてしまいます。
奥様も、もう…わかっていますよね?
あの方が“普通”じゃないこと。
だって、普通ではありえないことばかりなさっている。
束縛や管理、奥様の全てを征服して。
だからといって、それを止めさせることは誰にもできない」
「確かに…」
「だから、私のことは気になさらず……もし気になさるなら、ずっと旦那様の傍にいてあげて下さい。
もし今後……記憶が戻ったとしても…………」
そう言って、三好はダイニングの方へ行った。

陽愛は風呂場に行き、もう一度自分の身体を見た。
身体中━━━━
ほんとに身体中、キスマークだらけだ。
確かに紫龍は普通じゃない。
壊れているのかもしれない。

もし今後…記憶が戻ったらどうなるのだろう。
私はどうするのだろう。
少し、怖くなる。
もしかしたらこのまま、記憶を取り戻さない方がいいのかもしれない。

そんな気持ちを抱え、浴室に入った。




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