偽りの夫婦
紫龍の鋭い目。
例え友人でも、陽愛が自分以外と関わる。
それは紫龍にとって、不快でしかない。

「おそらく、櫻様かと…」
「あーあの女か」
「何かを旦那様に聞かなければいけないみたいなこと、話してました」
「わかった」

紫龍は真っ直ぐソファーに向かう。
陽愛が小さく丸くなって、眠っていた。
自然と紫龍の表情が緩み、フワッと微笑む。
紫龍は陽愛の頭の方に、起こさないようにゆっくり座ると、陽愛の頬を撫でた。
その表情は柔らかく穏やかで、陽愛を征服し、三好をシモベのように扱い、部下達を洗脳している人間とは思えない程だ。

「ん……」
「陽愛」
「んん…あれ…?紫龍?
はっ━━━!
今、何時!?」
ガバッと起きた陽愛。

「6時…8分位かな…?夕方の」
「へ?嘘…」
「ほんとだよ?」
「私、二時間も寝ちゃったの……?」
「フッ…可愛い~。
俺が無理をさせたから、疲れたかな…?」
陽愛の頭を撫でる、紫龍。
「そんな…。
あ、紫龍!お願いがあるの……」
「ん?何?」
「明日ね…ショップの子達と夜、食事会しよって誘われてて、行きたいんだけど……
行っていい?」
少しうつむきがちに、話す陽愛。

微笑んでいる、紫龍。
「それ…誰が来るの?」
その微笑みが、逆に怖い。
「え…あ、え、えーと…美緒と花実ちゃんと…桐子ちゃんの四人だよ」
「そう」
「ダメ…?」
「食事が済んだら、真っ直ぐ帰る。
男がいた時点ですぐに帰る。
何かあったら、すぐに俺に連絡する。
約束できる?」
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