身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

「これも今だから言うけど、あの出張に美桜を誘ったのは、いつも頑張っているお前へのご褒美のつもりだったんだけどな」
「ご褒美?」
「ほら、あの頃のお前はいつも仕事に追われて余裕なかっただろ。見ていてなんかかわいそうで、上司として元気づけてやろうと思ってさ。それで俺の出張に同行させて、北海道のドレスショップに連れて行ったってわけ」
「そうだったんですか……」

 確かに、あの出張で私は久々に間近でドレスを堪能することができた。自然と目が輝いていたし、気分も高揚した。たしかに元気が出たかもしれない。

「ま、その夜に我慢できずにお前のこと抱いたけど」
「えっ」

 柊一さんの口からぽつりと告げられたあの夜の出来事に、思わず赤面してしまう。そういえば、あの日に私は彼と初めて肌を重ねたんだ……。

「そういうわけで、俺は美桜と初めて言葉を交わした八年前からずっとお前に惚れてんだ。そう簡単に想いが消えるわけないだろ。この四年間も美桜だけを想って生きてきた。めちゃくちゃ好きなんだよ、お前のこと」

 手に持っているカップに視線を落したまま柊一さんが静かに告げる。その表情がなんだかとても寂しそうに見えて、私はそっと視線をそらした。

< 112 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop