身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
『とりあえず見るだけ見に来いよ。それでもう一度ドレスに関わる仕事がしたいと思ったなら、俺が力を貸すから』
「どういうことですか?」
『またうちの会社で働けばいいだろ』
「そんなこと……」
『できるよ。俺を誰だと思ってんだ』
これと同じセリフを確か以前も聞いたことがある。たしか、北海道出張のとき……。と、当時を懐かしんでいると、どうやら柊一さんも同じことを思い出していたらしい。
『そういえば、前はきっぱりと断られたっけ。自分の力で衣装事業部に戻るから俺の助けは必要ないって力強く答えてたよな、美桜。あのとき、さすが俺の惚れた女だってお前のこと見直した』
「えっ」
『でも、今回は断らなくていい。俺のせいで美桜が会社を辞めて、夢から離れる決断をさせてしまったことの責任を取りたいんだ』
「責任って……私は、そんなふうに思っていません」
私がセリザワブライダルを辞めたのは柊一さんのせいじゃない。私が自分で考えて決めたこと。だから、責任なんて感じる必要ないのに。
『俺はそう思ってるんだよ。だから、お前が夢を叶えるためなら俺は何でもするつもりでいるから』
「でも……」
『とりあえず今度のドレスショーには必ず来い。いいな』
柊一さんはそう告げると、私の返事を聞かないまま電話を一方的に切ってしまった。