身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
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翌日は朝からしとしとと雨が降っていた。少し前に梅雨入りが発表されたせいか、最近は雨ばかり降っている気がする。
そうなると自転車移動は大変で、チャイルドシートに雨除けカバーをしっかりと被せ、私はレインコートを着用しなければならない。
視界もあまりよくないので安全に自転車を漕いでいたらいつものお迎え時間よりも保育園に到着するのがほんの少し遅れてしまった。
「島本です。遅くなってすみません」
「ママー」
私の姿を見つけた冬真が嬉しそうに両手を広げてかけよってくる。それを受け止めると、ぎゅっと抱き締めた。
「ごめんね冬真。遅くなって」
後から担任の先生が来たのでいつものように挨拶をしてから帰ろうとしたものの、「島本さん」と呼び止められてしまう。
「少しだけお話いい?」
「はい」
なんだろう?
普段のお迎えのときにもその日の冬真の様子を簡単に教えてくれることがあるけれど、そのときとは少し先生の雰囲気が違う気がする。
先生は、私の足元にいる冬真にはなるべく聞こえないように小声で話し始めた。
「あのね、冬真君なんだけど、今日ちょっとお友達とケンカしちゃったのよ」
「え⁉ ケンカですか」
人見知りで内気な冬真にしては珍しい。というよりも初めてかもしれない。