身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
「何があったんですか」
焦って尋ねると、先生が事情を説明してくれる。
「今日ね、みんなでクレヨンを使ってお絵描きをしたの。それで冬真君と同じテーブルの子たちがみんなパパの似顔絵を描き始めたんだけど、その……冬真君だけ描けなくて」
先生はうちが母子家庭なことを知っているので、少し言いづらそうに言葉を続ける。
「でも、冬真君はあまり気にせずにママの絵を描いていたの。そのときの絵はリュックに入っているからおうちに帰ったら見てね。冬真君、とても上手に描けているから」
「はい。それで、ケンカは?」
気になって続きを促すと、先生からはすっと笑顔が消えて、代わりに困ったように眉をひそめた。
「子供同士のやり取りだからあまり気にしないでもらいたいんだけど。冬真君のお隣の席の瑠衣君がね、冬真君だけパパの絵を描いていないからちょっとだけからかうようなことを言ってしまったの」
先生は、瑠衣君が冬真になにを言ったかまでは具体的に教えてくれなかった。
「それでね、冬真君が少し嫌な思いをしてしまって、瑠衣君の描いた絵を自分のクレヨンでぐちゃぐちゃに塗りつぶしちゃったのよ。それに瑠衣君が怒ってしまって、冬真君のこと叩いちゃったの。怪我はしていないけど、痛かったみたいで冬真君が泣いちゃって」
「そうですか。そんなことが……」